理想を捨てた現実的なコードレビュー|トラブル回避の実践ガイド

IT開発

「品質の高いコードを書くべき」 「可読性を追求すべき」 これらは全て正論です。

しかし、この理想を追求した結果、 人が辞め、チームが崩壊し、プロジェクトが炎上する—— そんな現場を何度も見てきました。

本記事では、理想を捨て、現実と向き合った 「トラブルを起こさないコードレビュー」の方法論を共有します。 綺麗事抜きの、生存戦略としてのコードレビュー術です。

コードレビューの目的とは

コードレビューは、プロジェクトのコード品質を向上させるための重要なプロセスです。しかし、何をもって「品質が良い」と言えるのでしょうか。以下は品質の良いコードの基本的な要件です。

  • バグが存在しない
  • プロジェクトの設計方針を正確に反映している
  • 使用している言語の機能を適切かつ簡潔に活用している
  • クラスや変数は明瞭で適切に命名されている
  • 不必要な処理が排除され、処理が最適化されている

これらの要件を満たすコードは、ユニットテストが容易に行え、保守性が向上します。このようなコードは長期的な運用においても効果的に機能し続けます。

理想のコードレビュー

プロジェクトにcommitするコードは、前述の品質基準を満たすべきです。故に以下の方針が理想的なコードレビューと言えます。

  • 問題のあるコードを見つけた際は、遠慮せず修正案を提示する。
  • コントリビューターとの意見が合わない場合、議論を重ねて最善の解を見つけ出す。
  • 徹底的な議論の結果、最終的にcommitされるコードは、そのプロジェクトの高品質を保証するものとなる。

コードレビューの現実

理想的なコードレビューと現実にはギャップが存在します。たとえ品質向上を目指して、率直に自分の意見や修正提案をコメントしても、全てがスムーズに進むわけではありません。実際、多くのコントリビューターは、直接的な指摘や修正要求に反発することがあります。特に主張を強く押し通すと、あなたをめんどくさい奴と感じる者も出てくるでしょう。

こうした状況は、コードの品質だけでなく、チーム内の人間関係やコミュニケーションの質にも影響します。一つのレビューコメントが原因で、深刻な対立や人間関係の摩擦が生じることも珍しくありません。

そのため、現実的なアプローチを取ることが求められます。自分の意見や提案を伝える際には、相手の立場や感情を考慮し、適切なコミュニケーションを心がけることが重要です。

コードレビューの過度な追求がもたらす弊害

前章で触れたような理想を過度に追求する行動は、時として思わぬ弊害を生むことがあります。具体的には以下のような問題が生じる可能性があります。

チームの関係性の悪化

繰り返し厳しいレビューコメントが続くと、チームの信頼関係や協調性が損なわれることがあります。

人材の流出

特定のメンバーがコードレビューで常に厳しい指摘を受けることで、そのメンバーが会社を去る、あるいはプロジェクトから離脱する可能性があります。

生産性の低下

チーム内の緊張や不信感が増大すると、プロジェクトの進捗が遅くなる可能性があります。

コミュニケーションの障壁

コードレビューに関する過度な議論や対立が続くと、メンバー間のオープンなコミュニケーションが難しくなることが考えられます。

経営的なコスト

上述したように、人材が退職する場合、新しい人材の採用や教育に時間とコストがかかります。

上記に挙げた弊害は大袈裟な話に聞こえるかもしれませんが、エンジニアの業界は売り手市場であり、その流動性は非常に高いのが現実です。人間関係の摩擦やチーム内の微妙な不和が、エンジニアの転職を検討する大きな要因となっていることが珍しくありません。このような背景から、適切なバランスとコミュニケーションが組織の持続的な成長や人材の確保・維持において、非常に重要な要素であると感じています。

トラブルを避けるコードレビュー5箇条

コードレビューを効果的に行うための、基本となる5つの方針を以下にまとめました。これらの心得は、次の章で詳しく説明する具体的な対策を取り入れる上での根本的な心構えとして考えてください。

モラルを持ってレビューする

レビューは誠実さをもって行うもの。それは技術的なアドバイスよりも重要な意味を持ちます。

主観的な指摘を避ける

オブジェクティブな視点からのレビューがトラブルを回避し、チームの一体感を保つ鍵となります。

客観的な評価を元にレビューを行う

レビューの基準となる方針や規約を共有し、明確にすることで、コードレビューに於ける摩擦を減少させることができます。

過度なコードの品質の追求をやめる

品質の追求は重要ですが、それが過度になるとチームのコミュニケーションに影響することも。適切な基準の設定が求められます。

期限を守ってレビューする

レビューの遅延は、指摘内容以上にストレスを生みます。コントリビューターは既に次の作業に着手している可能性があり、後から指摘が来ると、頭の切り替えコストや手戻りの負担が大きくなります。理想は24時間以内、遅くとも48時間以内にレビューを完了させることで、多くのトラブルを未然に防ぐことができます。

これらの考え方は、より具体的なレビューの技法や対策を採用する際の基盤となります。適切な心構えを持ちながら、次の章での詳しい手法や考え方を取り入れていきましょう。

設計方針のドキュメント化

設計方針の明文化は、プロジェクトの一貫性と方向性を保つために不可欠です。具体的には以下の点をドキュメントとして整理することを推奨します。

プロジェクトのアーキテクチャの選定

例としてMVC, MVP, MVVMなど、どのアーキテクチャパターンを採用しているのかを明示します。

組み合わせる設計方針

テスト駆動設計やドメイン駆動など、その他の設計方針との組み合わせも明記します。

サンプルコードの提供

実際のコードをより理解しやすくするため、それぞれの設計に関連するサンプルコードをドキュメントに添付することが効果的です。

自動テストのサンプル

品質を保証するための自動テスト(ユニットテスト、結合テストなど)の例もドキュメントに掲載。

これらをドキュメントにまとめることで、チームメンバーがどのような設計方針でコードを書くべきかが、客観的かつ明確に共有されるようになります。

統一されたコーディング規約の重要性

コーディング規約は、チーム全員が同じルールのもとでコードを書くための指針となります。これにより、チーム内でのコードの一貫性が保たれ、結果的に可読性が向上します。

可読性と品質の向上

統一されたコーディングスタイルは、他のメンバーが書いたコードを理解しやすくするだけでなく、バグの発見も容易にします。

客観的な評価基準

コーディング規約が明確になれば、どのようなコードが良質であるかも明確になります。これが、コードレビューの客観的な評価基準となるため、主観的な議論が減少します。

外部資料の利用

初めてコーディング規約を作成する際、ウェブでの情報収集は非常に有効です。既存のコーディング規約を参考にすることで、チーム特有のニーズに合わせたカスタマイズが行えます。

静的解析ツールの活用

lintなどの静的解析ツールをCIプロセスに組み込むことで、コーディング規約に従っていないコードを自動的に検出することができます。多くのエンジニアは、静的解析ツールのフィードバックを客観的なものと捉え、その指摘に従う傾向があります。

レビュー方針のドキュメント化の重要性

コードレビューの過程はしばしば主観的な意見の交差点となります。そのため、レビューの方針を明確にドキュメント化しておくことは、客観的な評価基準を提供し、無用な対立を回避する上で不可欠です。

客観的な評価基準の提供

具体的なレビュー方針のドキュメントは、コードがどのような条件を満たすべきかを示します。例として、設計方針の遵守、既存のutilityメソッドの利用、view modelの自動テストの実装などが挙げられます。これにより、レビュアーは明確な基準に基づいてコードを評価できます。

方針の詳細度の調整

方針を詳細に記述することは重要ですが、過度に細かくしすぎると理解や実践が難しくなり、チーム内の摩擦の原因となる可能性があります。適切な詳細度を保つことで、チームの生産性や満足度を向上させることができます。

指摘意図を明確にするプレフィックスの使用

レビューコメントには様々な意図が含まれるため、レビューコメントのタグ付け、またはレビューコメントのプレフィックスという手法を用いてその意図を明確にすることが有効です。例えば、imoは主観的な意見を、MUSTは方針に反する重要な指摘を示すなど、これによりレビュアーとレビュイーの間の誤解を防ぐことができます。

主観的な可読性の指摘は避ける

コードの可読性を過度に追求することは、レビューを受ける側にとってストレスとなることが多いです。たとえば、リストの中身を処理する際のfor文に対して「forEachなどのメソッドを使用すればもっと簡潔に書けないか?」や、ネストが深いif文に対して「ブロック節を使ってはどうか?」、「複数の条件を&&でまとめれば?」といった提案です。

これらの指摘は一見、コードを改善する意図に見えますが、多くの場合、レビュアーの個人的な好みや主観に基づいています。

主観的な可読性の指摘がトラブルを生む理由

可読性に関する指摘は、以下の理由でトラブルの原因となります:

  • 客観的な基準がない:「読みやすい」「わかりやすい」は人によって感じ方が異なります
  • レビュー方針に明記されていない:コーディング規約や設計方針に記載のないスタイルの押し付けになります
  • 不毛な議論を生む:「こっちの方が読みやすい」「いや、こっちの方が明確だ」という主観同士のぶつかり合いになります

レビュー方針に基づいた指摘に限定する

実際、しっかりとした設計思想に基づくプロジェクトでは、極端に読みにくいコードは稀であり、そもそも頻繁にコードを修正するシチュエーション自体が少ないはずです。

したがって、設計の方針が守られ、テストが問題なく通過しており、コーディング規約にも違反していないのであれば、それ以上の可読性の追求は控えるべきです。

もし特定の書き方を推奨したいのであれば、それをレビュー方針やコーディング規約に明文化してからレビューコメントとして指摘しましょう。ドキュメント化されていないルールを、レビューの場で持ち出すことは避けるべきです。

レビュースケジュールを守るための具体的なルール

レビューを「時間があるときにやる」という曖昧な運用は、チームのトラブルを生む最大の原因の一つです。ここでは、レビューの遅延を防ぐための具体的なルールを紹介します。

テストまでに完了させる

プロジェクトにテストフェーズがある場合、テスト開始前にレビューを完了させることを厳守すべきです。テスト中やテスト後にレビュー指摘が入ると、以下のような問題が発生します:

  • テスト工程のやり直しが発生する:修正内容によっては、既に実施したテストケースを再度実行する必要があり、QA担当者の工数が無駄になります。
  • スケジュール遅延の原因となる:テスト完了予定日が後ろ倒しになり、リリース計画全体に影響を及ぼします。
  • QA担当者からの信頼を損なう:「またコードが変わるのか」という不信感が蓄積し、チーム間の協力関係が悪化します。
  • バグの見落としリスクが高まる:急いで修正したコードは十分なレビューを受けられず、新たなバグを生む可能性があります。

推奨される運用ルール:

  • テスト開始の48時間前までにレビューを完了させる
  • テスト前日以降はレビュー指摘を原則として行わない(クリティカルなバグを除く)
  • スプリント計画時に「レビュー完了期限」を明示する

これにより、開発者もQA担当者も安心して作業を進められる環境が整います。

期限を決めて運用する

レビューを後回しにしない文化を作るためには、明確な期限とルールの設定が不可欠です。以下のような具体的な運用方法をチームに導入しましょう。

1. レビュー時間を固定化する

レビューを「隙間時間にやる」のではなく、定期的な時間枠を確保します。

  • 朝一番の30分をレビュー時間にする:その日の開発作業を始める前に、前日までに上がったレビュー依頼を処理します。
  • ランチ後の15分をレビュータイムにする:午後の作業開始前に、溜まったレビューを消化します。

2. 自動リマインドの仕組みを導入する

人間の意識だけに頼らず、システムで強制力を持たせます。

  • レビュー依頼から24時間経過したら自動でリマインド通知を送る
  • 48時間経過したらチームリーダーにエスカレーションする
  • SlackやTeamsのbotを活用し、毎朝未対応のレビュー件数を通知する

3. 緊急度を明確にする

すべてのレビューを同じ優先度で扱うのではなく、緊急性に応じた対応を行います。

  • 通常レビュー:48時間以内に対応
  • urgent(緊急)ラベル付きレビュー:4時間以内に対応
  • blocker(ブロッカー)ラベル付きレビュー:1時間以内に対応

このように明確な期限を設定することで、「いつレビューすればいいかわからない」という曖昧さを排除できます。

4. スプリント終了前のレビュー締切を設定する

スプリント(またはイテレーション)の最終日直前にレビュー依頼が殺到する事態を避けるため、明確な締切を設けます。

  • スプリント終了の48時間前はレビュー提出の最終締切とする
  • それ以降の新規レビューは次のスプリントに回す
  • どうしても必要な場合は、チームリーダーの承認を必須とする

5. レビュー負荷の可視化

誰がどれだけレビューを担当しているかを可視化し、負荷の偏りを防ぎます。

  • ダッシュボードで各メンバーの未対応レビュー数を表示
  • 週次でレビュー対応時間を集計し、負荷が集中しているメンバーを特定
  • 必要に応じてレビュアーをローテーションし、特定の人に負担が集中しないようにする

これらのルールを導入することで、レビューの遅延によるトラブルを大幅に減らすことができます。重要なのは、「レビューは余裕があるときにやるもの」ではなく、「開発プロセスの必須タスク」として扱うことです。

終わりに

コードレビューのアプローチは様々ですが、今回共有させていただいた方法は、これまでの私の経験と観察に基づくものです。もちろん全ての現場やチームに合致するわけではありませんが、少しでも参考にしていただければと思います。

皆さんの日々の実務やチームワークにおけるコードレビューの取り組み、または異なる視点や意見があれば、ぜひコメント欄にシェアしてください。多様な意見を交換することで、より良いコードレビューの文化を築いていく手助けとなることを期待しています。

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