突然ですが、質問です。
次の経営者の中で、「最もすごい」のは誰だと思いますか?
- スティーブ・ジョブズ(Apple創業者)
- イーロン・マスク(Tesla・SpaceX CEO)
- ビル・ゲイツ(Microsoft創業者)
- 小川賢太郎(ゼンショー会長、すき家創業者)
- 神田和幸(ハイデイ日高会長、日高屋創業者)
おそらく多くの人が「ジョブズ」「マスク」と答えるでしょう。
それは間違いではありません。彼らは本当に偉大です。
しかし、この記事を読み終わる頃には、あなたの視点は少し変わっているかもしれません。
なぜなら、世間の「すごい経営者ランキング」は、経営の「難易度」や「労力」、そして「社会インフラとしての重要性」という側面をあまり評価していないからです。
この記事で語るのは、少し変わった視点です。
一般的に「すごい経営者」の評価軸は、イノベーション、時価総額、影響範囲、ストーリー性などです。
しかし、「経営の難易度」「日々の労力」「社会インフラとしての重要性」という別の軸で見たとき、実は最も過小評価されているのが「外食チェーンの経営者」ではないか、というのがこの記事の主張です。
もしかしたら極端に聞こえるかもしれません。
でも、一度この視点で考えてみてください。
「なぜ外食チェーンの方が難易度が高いかもしれないのか?」
その理由を、これから徹底的に解説していきます。
外食産業の大変さ
ホリエモンの「飲食はブルーオーシャン」理論
ホリエモン(堀江貴文)の有名な発言を紹介します。
「飲食はブルーオーシャン。理由は経営知らない馬鹿が趣味で作る店がほとんどで、そいつらがほとんど自爆レベルで店を潰す。しかし、ちゃんとしている人なら簡単なビジネスなのよ」
これは100%正しいです。ただし、「小さくやるなら」という前提付きで。
実際、個人店や5店舗程度のチェーンなら:
- 月商300〜500万円で手取り30〜80万円は余裕
- 競合の9割が「趣味で経営してる素人」
- SNSでちょっと映えれば即満席
年収2,000〜5,000万円は普通に狙える世界です。
しかし、「大きくする」と急に難易度がバグります。
規模別の難易度:「簡単」と「地獄」の境界線
| 規模 | 必要な能力・リスク | ホリエモンの理論 |
|---|---|---|
| 1〜5店舗 | 味+SNS+ちょっとした経営センス | ←ここまでは簡単(ブルーオーシャン) |
| 10店舗超 | 突然「人・衛生・ブランド管理」が爆発 | ←ここから死亡率90% |
| 50店舗超 | フランチャイズor直営の呪い+バイトテロ地獄 | ←すき家ですら死にかけた |
| 100店舗超 | もう「飲食」じゃなく「製造業+物流+IT企業」 | ←完全に別次元 |
実際のデータを見てみましょう:
飲食店の生存率(中小企業庁・帝国データバンク調査):
- 開業後1年以内の廃業率:約30%
- 開業後3年以内の廃業率:約50%
- 100店舗以上に成長できる確率:0.1%以下
つまり、1000店舗に1社しか100店舗を超えられない。
日高屋の450店舗、すき家の2,000店舗がどれだけ異常かわかるでしょう。
規模拡大の異次元の大変さ:ビジネスの総合格闘技
業種別「大規模化の複雑性」比較
他の業種と比較してみましょう。
製造業の場合:
10店舗→1000店舗の変化において、工場を増やすのは基本的に「同じことの繰り返し」です。品質管理は機械化・自動化でカバー可能、在庫管理はシステム化で対応、人材も工場労働者は比較的安定しています。
複雑性の増加率:線形(2〜3倍くらい)
小売業の場合:
10店舗→1000店舗の変化において、商品陳列はマニュアル化可能、在庫管理はPOSシステムで一元管理、接客は比較的パターン化できます。バイトテロリスクはありますが外食ほどではありません。
複雑性の増加率:やや非線形(5〜7倍くらい)
外食業の場合:
10店舗→1000店舗の変化において、以下の問題が全部同時に襲ってきます:
- 賞味期限・廃棄ロス → 毎日発生、店舗ごとに違う
- 調理スキル → 人間の技術、標準化が超困難
- 衛生管理 → 1店舗でも失敗したら全店アウト
- バイトテロ → SNS時代で10秒動画が致命傷
- 立地最適化 → 1000店舗分の市場調査が必要
- メニュー最適化 → 地域ごとに違う
- サプライチェーン → 生鮮食品の世界規模調達
- 人材の流動性 → 離職率40〜50%
複雑性の増加率:指数関数的(50〜100倍以上)
なぜ外食だけレバレッジが効かないのか?
ビジネスにおける「レバレッジ」とは:
- 少ない労力で大きな成果を出すこと
- 一度作ったものを何度も使い回せること
- 人を増やさずに売上を伸ばせること
製造業のレバレッジ:
工場を1つ作れば、機械が24時間働いてくれます。製品設計は一度やればOK。品質は機械が保証してくれます。人を2倍にすれば、生産量は2倍以上になります。
これがレバレッジ。
IT業界のレバレッジ:
アプリを一度作れば、100万人が使っても1000万人が使ってもコストはほぼ同じ。サーバーを増やすだけ。人を増やす必要はほとんどありません。
これが究極のレバレッジ。
外食のレバレッジ:
ほぼない。
- 店舗を2倍にしたら、人も2倍必要
- 調理は毎日、人間の手でやり直し
- 品質は人間次第、標準化ほぼ不可能
- 食材は毎日仕入れ直し、在庫は持てない
- 立地は1店舗ごとに全く違う
完全な人海戦術。地道な積み重ねしかない。
他業種は「かけ算」、外食は「足し算」:
製造業:工場1つ × 機械の力 = 生産量100倍
IT業界:アプリ1つ × ユーザー数 = 売上1000倍
外食:店舗1 + 店舗2 + 店舗3 + ... + 店舗2000 = 売上2000倍
外食だけ、一つひとつ足していくしかない。
すき家が2000店舗なら、2000回同じことを繰り返してる。ショートカットはない。
だから「複雑性」が爆発的に増える:
レバレッジが効かないということは、店舗数 × 問題の種類 = 管理すべき事項が膨大になります。
例えば:
- すき家2000店舗 × 8つの問題 = 16,000の管理ポイント
- しかも1店舗ごとに状況が違う
- しかも毎日リセットされる(食材・人員)
これが「地獄」の正体。
IT企業なら:
- サーバー1つ × 100万ユーザー = でも管理ポイントは1つ
レバレッジの有無が、すべてを決める。
8つの複雑性要素を業種別に比較
| 要素 | 製造業 | 小売業 | 外食 |
|---|---|---|---|
| 賞味期限管理 | △(部品は長持ち) | △(商品による) | ×(毎日廃棄) |
| 品質の人間依存度 | ○(機械化可能) | ○(仕入れで決まる) | ×(調理人次第) |
| バイトテロリスク | △(工場は非公開) | △(店舗だが接触少) | ×(調理場がSNS直結) |
| 立地依存度 | ○(工場は郊外でOK) | △(ある程度重要) | ×(超重要) |
| サプライチェーン複雑性 | △(部品は保存可) | △(在庫持てる) | ×(生鮮で世界調達) |
| 人材流動性 | ○(比較的安定) | △(やや高い) | ×(離職率40〜50%) |
| 在庫の緩衝効果 | ○(数ヶ月保管可) | ○(ある程度可) | ×(当日限り) |
| 価格転嫁の難易度 | △(B2Bなら可) | △(競合次第) | ×(客離れ直結) |
結論:外食だけが全項目で×(最悪)
コモディティという呪い:ありふれた商品で勝負する難しさ
外食の難しさには、もう一つ根本的な問題があります。
扱ってるのが「ありふれた食べ物」だということ。
iPhoneは「革新的」でした。初めて見たとき、誰もが驚いた。だから15万円でも売れる。
Teslaは「電気自動車の未来」でした。環境意識の高い人が喜んで買う。だから高くても売れる。
では、牛丼は?ラーメンは?
誰でも知ってる。家でも作れる。コンビニでも買える。
完全なコモディティ(日用品)。
コモディティで勝負するということ:
- 差別化が超困難
- 牛丼は牛丼。ラーメンはラーメン
- 「革新的な牛丼」なんてない
- 味の違いは素人にはわからない
- 価格競争から逃げられない
- 「牛丼1500円」は誰も買わない
- 「でも品質が…」は通用しない
- 結果、630円で勝負するしかない
- ブランド力が効きにくい
- 「Apple信者」は存在する
- 「すき家信者」は存在しない
- 安い方、近い方に行くだけ
これがAppleと外食の決定的な違い。
Appleは「イノベーション」で高く売れる。外食は「コモディティ」で安く売るしかない。
でも、安く売って2000店舗回すのは地獄です。
原価率ギリギリ、人件費削減の限界、廃棄ロスは毎日発生。
それでもやる。なぜか?
次の章で語ります。
すき家という「怪物」の正体
1店舗から2000店舗への道のり
すき家の成長を時系列で見てみましょう:
| 年 | 出来事 | 規模の目安 |
|---|---|---|
| 1982年 | 横浜市瀬谷区に「すき家1号店」開店 | 1店 |
| 1990年 | フランチャイズ展開開始 | 約50店 |
| 1998年 | 小川賢太郎が社長就任 → 本気の拡大スタート | 約100店 |
| 2001年 | 業界初「24時間営業・年中無休」全店導入 | 約300店 |
| 2003年 | 吉野家を抜いて牛丼チェーン店舗数日本一に | 約800店 |
| 2010年 | ワンオペ営業本格導入(人件費激減) | 1,500店 |
| 2014年 | ワンオペ炎上 → 調整 | 1,900店 |
| 2016年 | 2,000店舗突破 | 2,000店 |
| 2025年 | 国内約2,000店舗、時価総額1兆3,800億円 | 2,000店 |
もはや牛丼屋じゃない理由
2025年現在のすき家がやっていること:
- 全国2,000店舗すべてでAI解析
- 売上データ×人口動態×競合店×時間帯をリアルタイム解析
- メニュー自動調整(地方は卵多め、都会はトッピング強化)
- 世界規模のサプライチェーン
- オーストラリアに自社牧場
- アメリカに飼料会社
- ベトナムに米農場
- 組織体制
- 出店戦略部:180人
- GIS・AI解析チーム:50人
- メニュー最適化チーム:30人
もはや「牛丼屋」じゃなく「グローバル商社+不動産+データサイエンス企業」です。
理念なき者は生き残れない:外食経営者の覚悟
なぜこんな地獄のようなビジネスを続けられるのか?
ここまで読んで、あなたはこう思ったはずです。
「なぜこんな大変なビジネスを続けられるんだ?」
賞味期限との戦い、バイトテロのリスク、世界規模のサプライチェーン、離職率40%、食中毒の恐怖、価格転嫁の綱渡り…
合理的に考えれば、やらない方がいい。
ホリエモンが「5店舗で止めとけ」と言うのも正しい。年収3000万円で十分じゃないか。
でも、すき家は2000店舗、日高屋は450店舗まで拡大した。
なぜか?
答えは単純です。
「金儲け」じゃなく「理念」でやってるから。
小川賢太郎(すき家)の理念
小川さんは語ります:
「俺たちがやってるのは、単なる牛丼屋じゃない。日本中の働く人に、安くて旨い飯を届けること。それが使命だ」
すき家の牛丼は630円。サラリーマンが毎日食べられる価格。
でも、この価格で2000店舗回すのは地獄です。
- 原価率ギリギリ
- 人件費削減の限界
- 値上げしたら客が減る
それでもやる。なぜか?
「食える社会」を作りたいから。
神田和幸(日高屋)の理念
神田さんは言います:
「俺は高校中退の元建設作業員だ。学もない、金もない、そんな俺でも食えたのは、安い中華屋があったから。だから、次の世代にも同じものを残したい」
日高屋のラーメンは390円。学生でも毎日食べられる価格。
でも、この価格で450店舗回すのは地獄です。
それでもやる。なぜか?
「誰でも食える場所」を守りたいから。
理念がなければ、この地獄は耐えられない
冷静に考えてください。
この業界、金儲けだけが目的なら絶対に続かない。
- 毎日廃棄ロスが出る
- 毎日人が辞める
- 毎日食材価格が変動する
- 毎日バイトテロのリスク
- 毎日衛生管理の緊張
- 毎日価格競争
こんなの、普通の神経なら3年で潰れます。
でも、すき家も日高屋も何十年も続けてる。
違いはあるが、本質は同じ
すき家と日高屋、やり方は違います:
| 項目 | すき家 | 日高屋 |
|---|---|---|
| 規模 | 2000店舗 | 450店舗 |
| 戦略 | AI・システム化 | 現場主義・徒歩調査 |
| 展開 | フランチャイズ活用 | 完全直営 |
| 哲学 | テクノロジーで効率化 | 人間性を大切に |
でも、本質は全く同じです:
- 「安く、旨いものを提供する」という使命
- すき家:630円の牛丼
- 日高屋:390円のラーメン
- 利益より社会貢献
- 両社とも利益率は10%前後
- もっと値上げすれば儲かるのにやらない
- 「食える社会」を守る覚悟
- どちらも「次の世代に残す」ことを語る
- どちらも「金儲けのため」とは言わない
- 創業者の原体験
- 小川さん:「食に困った時代を知ってる」
- 神田さん:「貧乏な時、安い中華屋に救われた」
これが「人類救済の苦行」の正体
外食で大規模展開する経営者は、全員こうです。
理念がなければ、この地獄は乗り越えられない。
- スターバックス創業者:「サードプレイスを作る」
- マクドナルド創業者:「家族の時間を提供する」
- ケンタッキー創業者:「美味しいチキンで笑顔を」
みんな「金儲け」じゃなく「使命」を語る。
なぜか?
金だけが目的なら、もっと楽なビジネスがあるから。
IT、金融、不動産…どれも外食より100倍楽です。
でも、彼らは外食を選んだ。
それは「人間が生きるために必要なもの」だから。
だから彼らは「菩薩」なのだ
スティーブ・ジョブズは「かっこいいiPhone」を作った。イーロン・マスクは「火星に行く夢」を語る。
素晴らしい。本当に素晴らしい。
でも、小川さんと神田さんは違う。
彼らは「今日、誰かが腹を空かせないように」戦ってる。
地味で、目立たなくて、誰も称賛しない。
でも、毎日、何百万人もの日本人を生かしてる。
これを「苦行」と呼ばずして、何と呼ぶのか。
これを「菩薩」と呼ばずして、何と呼ぶのか。
スーパーハードワーカーたちの素顔
理念だけじゃない。彼らは異常なハードワーカーでもあります。
小川賢太郎(すき家)のワークスタイル:
- 朝5時起床、夜12時就寝(睡眠5時間)
- 週に5〜6日、全国の店舗を視察
- 年間200店舗以上を自分の目で見る
- 移動中も常にデータチェック
- 「店舗を見ないと気が済まない」が口癖
あるインタビューで:
「2000店舗あっても、全部俺の店だ。見ないわけにはいかない」
神田和幸(日高屋)のワークスタイル:
- 77歳の現在も週4日出社
- 店舗視察で見つけたゴミは自分で拾う
- 「社長より早く出社する社員はいない」と言われる
- 新店オープンは必ず自分で確認
- 「店は俺の子供だから」が口癖
社員の証言:
「神田さんが来ると、みんな背筋が伸びる。でも怒鳴ったりしない。ただ、ゴミを拾って去っていく」
これ、何十年も続けてるんです。
30代、40代、50代、60代、70代…ずっと。
理念だけじゃここまでできない。
使命感、執念、そして異常な体力。
全部揃って初めて、この地獄を乗り越えられる。
だから「菩薩」じゃなく「修行僧」かもしれない。
世間の評価は「一面的」かもしれない
なぜ世間は「Apple > すき家」と思うのか?
| 評価軸 | 世間の脳内 | 実際の難易度 |
|---|---|---|
| 見た目のカッコよさ | iPhoneめっちゃカッコいい! | 牛丼630円…地味… |
| スケール感 | 時価総額400兆円! | 時価総額1.4兆円…小さい… |
| メディア露出 | 毎日ニュースに出る | ほとんど出ない |
| ストーリーの語りやすさ | 「ガレージから世界企業!」 | 「埼玉の町中華が450店舗…?」 |
世間が評価してるのは「華やかさ」や「革新性」であって、「経営難易度」や「日々の労力」ではない、ということです。
Appleとすき家のビジネス構造を比較
Appleのビジネス構造:
設計(本社) → 製造委託(鴻海) → 完成品 → 倉庫 → 配送 → 販売
特徴:
・製造は鴻海に丸投げ
・品質は機械がコントロール
・在庫は半年持つ
・値上げしても客は買う(iPhone 15万円→20万円でもOK)
・バイトテロリスク:ほぼゼロ(工場非公開)
複雑性の要素数:5〜6個
すき家のビジネス構造:
世界中から生鮮食材調達 → 2000店舗 → 毎日調理 → その場消費 → 廃棄
特徴:
・調理は全店舗で毎日発生
・品質は人間次第
・賞味期限は数時間
・値上げしたら客が減る(630円→680円で客激減)
・バイトテロリスク:超高(SNS時代)
・サプライチェーン:生鮮で世界規模
・立地選定:2000ヶ所すべて違う
・メニュー最適化:地域ごとに違う
複雑性の要素数:15個以上
マズローの欲求階層説が示す真実
ここで、心理学者マズローの「欲求階層説」を思い出してください。
| 欲求階層 | 具体例 | 誰が満たしてる? |
|---|---|---|
| 5. 自己実現欲求(最上層) | かっこいいiPhone、火星旅行 | ジョブズ・マスク |
| 4. 承認欲求 | 周りに認められたい | – |
| 3. 社会的欲求 | 仲間が欲しい | – |
| 2. 安全欲求 | 安全に暮らしたい | – |
| 1. 生理的欲求(最下層) | 食べないと死ぬ | 小川・神田 |
iPhoneは「自己実現」を満たす商品。
牛丼は「生存」を支える商品。
どちらが重要か?答えは明白です。
- iPhoneなくても人間は生きられる
- 牛丼(=食)がなければ人間は死ぬ
下を支えてる方が実は難易度も高く、社会貢献度も高いかもしれない。
でも世間は「キラキラしてる上の方」を評価しがちです。
数字で見る「真の影響力」
日本人への影響範囲
| 指標 | ジョブズ(Apple) | 小川賢太郎(すき家) |
|---|---|---|
| 日本人への影響範囲 | iPhone保有者 約8,000万人 | 外食利用者 約1億2,000万人 |
| 利用頻度 | 1日数時間 | 1日1〜3食(一生) |
| 生活必需度 | なくても死なない | 食わなきゃ死ぬ |
| 価格 | iPhone 15万円 | 牛丼630円 |
| 値上げ耐性 | 2万円上げても買う | 50円上げたら客激減 |
| 代替可能性 | Android使えばいい | 食わなきゃ死ぬ(代替不可) |
| 失敗時の社会的影響 | 「新機種が出ない」 | 「飢える人が出る」 |
社会インフラとしての重要度で見れば、小川さんも同等、いや、もしかしたらそれ以上かもしれません。
2024年の飲食業界データ
最新の数字を見てみましょう:
飲食店の倒産状況(2024年):
- 倒産件数:894件(過去最多)
- 前年比:16.4%増
- 業態別最多:居酒屋212件、中華料理店158件、西洋料理店123件
倒産の主な原因:
- 物価高(食材費・光熱費の高騰)
- 人件費上昇(最低賃金引き上げ)
- 人手不足(有効求人倍率2.96倍)
- 価格転嫁率36.0%(全業種平均44.9%より低い)
これだけ厳しい環境で、すき家や日高屋は成長を続けている。
その異常性がわかるでしょう。
8つの地獄を乗り越える者たち
外食チェーンが大規模化する際に直面する「8つの地獄」を詳しく見ていきましょう。
賞味期限との戦い
製造業: 部品は数ヶ月〜数年保管可能
外食: 生鮮食品は数時間〜数日、毎日廃棄が発生
すき家の対策:
- AIで需要予測し、廃棄率を最小化
- 店舗ごとの発注を自動最適化
バイトテロという悪夢
SNS時代の脅威:
- たった10秒の動画で株価20〜30%下落
- 1人のバカが全店舗のブランドを破壊
実例(2024年):
- 某大手チェーンのバイトテロで株価急落
- フランチャイズ店での不祥事が本部直撃
日高屋の対策:
- 完全直営(フランチャイズなし)
- 徹底した教育とモニタリング
立地選定という科学
1000店舗出店する場合:
- 1000ヶ所すべてで市場調査が必要
- 半径500m圏内の人口動態分析
- 競合店の影響予測
- 交通量・人流データの解析
日高屋の手法:
- 社員が実際に歩いて調査(今でも)
- サラリーマン・学生・主婦の密度を手計測
すき家の手法:
- GIS・AI解析チーム50人体制
- ビッグデータで最適立地を自動選定
メニュー最適化という芸術
地域差の例:
- 北海道:味噌ラーメンが強い
- 関東:醤油ラーメンが主流
- 九州:豚骨ラーメン一強
- 関西:うどん文化が根強い
すき家の対応:
- 地方は卵を多めに提供
- 都会はトッピングを強化
- AIで各店舗の売れ筋を分析
サプライチェーンという迷宮
2022〜2025年の実例:
- 2023年:ロシア・ウクライナ戦争で小麦粉が1.8倍
- 2024年:鳥インフルで卵が壊滅
- 2025年:円安+アメリカ牛肉輸出規制
すき家の対策:
- オーストラリアに自社牧場を建設
- アメリカに飼料会社を設立
- ベトナムに米農場を確保
もはや商社レベルの世界規模サプライチェーン。
人材流動性40%という現実
飲食業の離職率:40〜50%/年
つまり:
- 1000人雇ったら、1年後には400〜500人が辞める
- 常に新人教育し続ける必要がある
- ノウハウが蓄積されにくい
日高屋の対策:
- 業界トップクラスのボーナス
- 学歴不問の採用(やる気と素直さ重視)
- 社員への手厚い待遇
食中毒という一発アウト
1回の食中毒で:
- 営業停止
- 補償金数億円
- ブランド毀損
- 全店舗への風評被害
対策の難しさ:
- 1000店舗すべてで完璧な衛生管理が必要
- 1店舗でも失敗したら全店アウト
価格転嫁という綱渡り
2024年のデータ:
- 飲食業の価格転嫁率:36.0%
- 全業種平均:44.9%
なぜ価格転嫁できないか:
- 値上げ → 客離れ → 売上減少
- 競合が値上げしなければ負ける
- 低価格が強みの店は特に厳しい
すき家の対応:
- 何度も値上げしても客が減らない中毒性
- ブランド力で価格競争を回避
おわりに:もっと敬意を払おう
「欲望を満たす天才」vs「生存を支える菩薩」
- ジョブズ = 欲望を満たす天才
- マスク = 夢を見せる天才
- 小川・神田 = 生存を支える菩薩
iPhoneは「自己実現」を満たす商品。
牛丼は「生存」を支える商品。
どちらが重要か?
一概には言えません。でも、少なくとも後者も同じくらい評価されるべきではないでしょうか。
スティーブ・ジョブズは革新的なiPhoneを作った。素晴らしい功績。
小川賢太郎は毎日何百万人もの日本人を食わせてる。それも素晴らしい功績。
世間は前者を崇める。それは間違いじゃない。彼らは本当に偉大だ。
でも、小川さんや神田さんも同じくらいすごい。もしかしたら、もっとすごいかもしれない。
少なくとも、外食チェーンの経営者たちに、もっと敬意を払ってもいいんじゃないでしょうか。
世間評価を別の軸で見ると
【世間の一般的な認識】
テック企業CEO > 外食チェーン経営者
【「経営難易度」と「労力」という軸で見た場合】
外食チェーン経営者 ≧ テック企業CEO (かもしれない)
一つの視点として
だから俺たちは、すき家のカウンターで牛丼を食いながら:
「小川さん…今日も俺の命を支えてくれてありがとう…」
「ジョブズもすごいけど、お前も同じくらい、いや、もしかしたらもっとすごいかもしれない…」
って心の中でつぶやいてみる。
そんな視点があってもいいんじゃないでしょうか。
それだけで、世界の見え方が少し変わるかもしれません。
(合掌×3)
あとがき
この記事を書きながら、改めて思いました。
外食産業の経営者は、本当に「人類救済の苦行」をやっている。
- 毎日、賞味期限と戦い
- 毎日、人材不足と戦い
- 毎日、バイトテロのリスクと戦い
- 毎日、世界中から食材を調達し
- 毎日、数百〜数千の店舗を回し
- 毎日、何百万人もの日本人に食事を提供している
そして、それを「当たり前」のようにやり遂げている。
次に牛丼を食べるときは、ちょっとだけ立ち止まって考えてみてください。
この一杯の裏に、どれだけの人の努力があるのか。
どれだけ複雑なサプライチェーンがあるのか。
どれだけの経営判断が積み重なっているのか。
そして、心の中で手を合わせましょう。
「ごちそうさまでした」だけじゃなく、
「今日も俺を生かしてくれてありがとう」と。
そんな視点で外食を見てみる。
それも、悪くないんじゃないでしょうか。
(合掌×3)



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