フリーランスエンジニアとして常駐していると、「あれ?」と感じる瞬間がある。
全社会議に呼ばれる。チームビルディングに参加させられる。1on1で「最近どうですか?」と聞かれる。
契約書には「業務委託」と書いてある。つまりジョブ型の関係だ。必要なスキルを持つ人間に、明確なタスクを依頼し、成果に対して報酬を払う。それだけのはずだった。
なのに現場での扱いは、なぜか正社員と同じ。契約はジョブ型、扱いはメンバーシップ型。この矛盾に気づいていないのは、たいてい企業側だ。
この記事は、そんな「ズレ」を感じた瞬間をあるある形式でまとめたものだ。
あるある①:全社会議・ビジョン共有会に呼ばれる
経営ビジョンの共有。今期の振り返り。来期の方針発表。
社員にとっては大事なイベントかもしれない。でもフリーランスからすると、来月いるかどうかもわからないのに、3年後のビジョンを共有されても温度差がすごい。
社長が熱く語る横で、フリーランスは工数計算をしている。「この1時間、作業に充てたかったな」と。
別に会社が嫌いなわけじゃない。ただ、契約書に「全社会議への参加」とは書いていない。
あるある②:ジョブ型と言いつつ、正社員みたいな面談をされる
面談前に届くメール。「弊社はジョブ型採用を推進しております。つきましては、スキルシートと履歴書をご提出ください」
ジョブ型とは。
スキルシートに技術スタック、実務経験、担当プロジェクトが全部書いてある。それを見て判断するのが「ジョブ型」じゃないのか。なぜ学歴と職歴の年表が必要なのか。
面談では「ご趣味は?」「休日は何をされてますか?」と聞かれる。俺のReactのスキルと休日のウイスキーに何の関連があるのか。
結局、「ジョブ型」と言いつつやっていることは正社員採用の面接そのもの。言葉だけ流行りに乗せて、中身が追いついていない。
あるある③:業務委託なのに「社員旅行」に連れて行かれる
最近Xでバズったポストがある。ある企業がフリーランスの業務委託メンバーを集めて「社員旅行」に連れて行ったという話だ。いいね1,500超え、インプレッション9万。
しかも参加したフリーランス側も「社員旅行」と呼んでいたらしい。いや、お前は社員じゃないんだが。
ネットの反応は辛辣だった。
- 「そんなに大事なら正社員にしろよ」
- 「社保逃れしておいて仲間扱いは都合良すぎ」
- 「旅行代はお前らの社会保険料を払わなかった金だろ」
都合のいい時だけ「仲間」、プロジェクトが終われば「契約終了です」。ボーナスも昇給も退職金もないのに、帰属意識だけは求められる。忘年会の参加費は自腹。経費にもならない。
これは福利厚生ではない。接待だ。
あるある④:チームビルディングに混ぜられる
「来週チームビルディングやります!フリーランスの方もぜひ!」
自己紹介ゲーム。価値観共有ワーク。チームの目標設定。
社員同士の結束を高めたい気持ちはわかる。でもそこに3ヶ月後にいないかもしれない人間を混ぜて何がしたいのか。
「チームの一員として」と言われるたびに、心の中で契約書を思い出す。そこには「業務委託」と書いてある。チームの一員にしたいなら、まず雇用契約を結んでくれ。
フリーランスを混ぜたチームビルディングで生まれるのは、結束ではなく気まずさだ。
あるある⑤:1on1で本音を絶対に言わない
「最近どうですか?困ってることありますか?」
ない。いや、正確に言えばあっても言わない。
フリーランスは委託先と近すぎず遠すぎずの距離感を保って参画している。深い話をしても、根本的な問題を指摘しても、余計なトラブルが生まれるだけで自分にメリットがない。改善されるかもわからないし、「面倒なやつ」と思われたら契約更新に響く。
だから「特に問題ないです」「やりやすい環境です」「チームの雰囲気いいですね」と、完璧な当たり障りのない回答を返す。毎回。
上司は「1on1で現場の声を拾えている」と満足する。フリーランスは「今日も無事に乗り切った」と安堵する。誰も本音を言っていないし、誰も本音を聞けていない。
そもそもフリーランスは、良くも悪くも外部の人間だ。会社に依存する必要がない。だから積極的に会社を変えようとする理由もない。不満があれば、別の会社に移ればいいだけなのだから。
この茶番に毎月30分使う意味を、誰か教えてほしい。
あるある⑥:正社員への転向を提案される
「ぜひ正社員としてうちに来ませんか?」
提案してくれること自体はありがたい。評価されている証拠だとも思う。ただ問題は、なぜフリーランスという働き方を選んでいるのか、まったく理解されていないことだ。
「うちのプロジェクト、ビジョンに共感してもらえると思うんです」「一緒に会社を大きくしていきましょう」と、目を輝かせて語ってくる。そのビジョンを否定する気はない。本当に素晴らしいのかもしれない。
でも、会社に縛られず自分軸で生きるためにフリーランスを選んでいる人間からすると、正直なところ割に合わない提案だなと感じてしまう。
せめて「なぜフリーランスをやってるんですか?」と一言聞いてから提案してほしい。こちらの選択を理解した上での提案なら、まだ対話になる。一方的に「正社員の方がいいでしょ?」と進められると、ああ、この人はフリーランスを「正社員になれなかった人」だと思ってるんだな、と悟る。
あるある⑦:退場時に誓約書を強要される
契約終了。最終日。荷物をまとめて帰ろうとしたら、「こちらの誓約書にサインをお願いします」。
中身を見ると、競業避止義務、秘密保持の拡大解釈、損害賠償条項…。こっち側にメリットが一切ない書面が出てくる。
いや、ちょっと待ってくれ。これ、入場時の契約書に書いてなかったよな?なぜ退場する時に、新しい縛りを追加しようとするのか。
しかも最終日に出してくるから、「ここでゴネたら面倒だし…」と思わせる空気がある。計算なのか天然なのかわからないが、どちらにしてもタチが悪い。
さらにタチが悪いのは、後日エージェントに「こんなことがあった」と相談したら、「こちらも了承済みです」と返ってきたことだ。了承するなよ。当事者である自分には最終日まで知らされず、エージェントは事前に了承している。つまり一番影響を受ける本人だけが蚊帳の外だった。
雇用関係にない人間に競業避止を求めるのは、法的にもかなりグレーだ。フリーランスは次の現場で食っていくしかないのに、「同業他社に行くな」は実質的に「死ね」と言っているのと同じである。
なぜこれがまかり通っているのか。推測でしかないが、エージェントにとっては企業側の方が「大口顧客」だからではないだろうか。フリーランス1人は1案件分の売上だが、企業1社は複数案件を継続的に発注してくれる。天秤にかければ、企業の要望を優先した方がビジネス上合理的だ。
ちなみに、業務委託終了時の誓約書は、サインしなくても法的に問題ないケースがほとんどだ。雇用関係がない以上、競業避止の強制力は極めて弱い。でもそれを教えてくれる人は、現場にもエージェントにもいない。
フリーランスはそういうのが嫌で、フリーランスになっている
フリーランスは、そういうのが嫌だからフリーランスになっている。
全社会議に出たくないからフリーランスになった。意味のないチームビルディングに参加したくないからフリーランスになった。人間関係の政治に巻き込まれたくないからフリーランスになった。仕事を成果と報酬だけのシンプルな関係にしたかったから、フリーランスという働き方を選んだ。
でも現場に行けば正社員と同じ扱いをされる。同じ会議に出させられ、同じイベントに参加させられ、同じ帰属意識を求められる。でも待遇だけは正社員じゃない。
まぁ、こちらも大人なので合わせますよ。全社会議にも出るし、チームビルディングにも参加する。1on1では「いい環境ですね」と笑顔で答える。
ただ、更新しないだけだ。
理由は聞かれても言わない。だってそれも、言うメリットがないから。



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