フリーランスとして独立したら避けて通れないのが確定申告です。会社員時代は会社がやってくれていた税務処理を、今度は自分で行う必要があります。この記事では、フリーランスになったばかりの方に向けて、確定申告の基本から実践的な進め方まで詳しく解説します。
フリーランスになったら確定申告が必要な理由
会社員との違い
会社員の場合、毎月の給料から所得税や住民税が天引きされ、年末調整で税額の調整が行われます。しかし、フリーランスは事業所得として収入を得るため、自分で1年間の所得を計算し、税務署に申告する必要があります。
これが確定申告です。毎年2月16日から3月15日までの期間に、前年1月1日から12月31日までの所得について申告・納税を行います。
確定申告しないとどうなる?
確定申告を怠ると、以下のようなペナルティが課せられます:
- 無申告加算税:本来の税額に加えて5~20%の加算税
- 延滞税:期限後の日数に応じた延滞税(年率2.4~8.7%程度)
- 重加算税:意図的に隠蔽した場合は35~40%の重加算税
また、確定申告をしていないと住民税の計算もできないため、自治体からの問い合わせが来る可能性もあります。
青色申告と白色申告の違い
確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2つの方法があります。
控除額の差(10万円、55万円、65万円)
白色申告
- 特別控除:なし
- 帳簿付け:簡単な収支内訳書のみ
- 事前手続き:不要
青色申告(10万円控除)
- 特別控除:10万円
- 帳簿付け:簡易簿記
- 事前手続き:青色申告承認申請書の提出
青色申告(55万円控除)
- 特別控除:55万円
- 帳簿付け:複式簿記による記帳
- 事前手続き:青色申告承認申請書の提出
青色申告(65万円控除)
- 特別控除:65万円
- 帳簿付け:複式簿記による記帳
- 事前手続き:青色申告承認申請書の提出
- 追加条件:e-Taxでの申告または電子帳簿保存
必要な準備の違い
白色申告は帳簿付けが簡単な反面、控除額が少なくなります。青色申告は帳簿付けが複雑になりますが、控除額が大きく、節税効果が高くなります。
初心者は白色から始めるのもアリ
フリーランス初年度で売上がそれほど多くない場合は、まず白色申告で慣れてから青色申告に移行するのも一つの方法です。ただし、青色申告の場合は事前に申請書の提出が必要なので、計画的に検討しましょう。
確定申告の最低限の準備
確定申告をスムーズに進めるために、事前に準備しておくべき書類や仕組みについて解説します。最初にしっかりと準備しておけば、後の作業が格段に楽になります。
開業届と青色申告承認申請書
フリーランスとして事業を始める場合、以下の書類を税務署に提出します:
個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)
- 提出期限:開業から1ヶ月以内
- 提出は必須ではないが、青色申告をする場合は必要
所得税の青色申告承認申請書
- 提出期限:開業から2ヶ月以内(または青色申告を受けようとする年の3月15日まで)
- 青色申告をする場合は必須
事業用口座の必要性
事業用の銀行口座を開設すると、プライベートの支出と事業の支出を明確に分けることができます。経理処理が楽になり、税務調査の際も説明しやすくなります。
ただし、必須ではありません。個人口座でも、しっかりと事業用途とプライベート用途を分けて記録していれば問題ありません。
クラウド型経理ソフトを使う場合の注意点
後で説明するクラウド型の経理ソフトを使いたい場合は、連携できる銀行の口座を作っておくと便利です。主要なネットバンク(楽天銀行、住信SBIネット銀行など)はほぼ全ての経理ソフトと連携可能です。
また、事業用のクレジットカードも作っておくことをおすすめします。こちらもクラウド型経理ソフトと連携でき、経費の管理が自動化されるため非常に便利です。
レシート・領収書の管理方法
事業に関連する支出のレシートや領収書は、7年間保存する義務があります。以下のような方法で整理しましょう:
- 月ごとにファイリング
- 勘定科目ごとに分類
- デジタル化してクラウドで保存
- レシートアプリの活用
経費として計上できる主な項目:
- 事務用品費
- 通信費(インターネット、携帯電話)
- 水道光熱費(在宅ワークの場合、按分計算)
- 交通費
- 会議費
- 研修費
- 書籍代
自分でやるか、税理士に頼むか
自分でやる場合のメリット・デメリット
メリット
- 費用を抑えられる
- 自分の事業の数字を把握できる
- 税務に関する知識が身につく
デメリット
- 時間と手間がかかる
- 税法の知識が必要
- ミスのリスクがある
税理士に頼む場合(費用相場など)
費用相場
- 年商500万円以下:年間10~15万円程度
- 年商1000万円程度:年間15~25万円程度
- 年商2000万円程度:年間20~35万円程度
メリット
- 時間を節約できる
- 専門知識による正確な処理
- 税務調査時のサポート
- 節税提案を受けられる
売上規模別の判断基準
年商300万円以下
- 自分でやることを推奨
- 白色申告でもOK
年商300~800万円
- 経理ソフトを使って自分でやる
- 青色申告で節税効果を狙う
年商800万円以上
- 税理士への委託を検討
- 時間対効果を重視
自分でやる場合の進め方
経理の基礎知識をどこまで学ぶか
最低限覚えておきたい知識:
勘定科目
- 売上、仕入れ、経費の基本的な分類
- よく使う勘定科目(通信費、消耗品費、交通費など)
複式簿記の基本
- 借方・貸方の概念
- 仕訳の基本的な考え方
所得計算
- 売上 – 経費 = 所得
- 所得 – 各種控除 = 課税所得
青色申告会の活用
各地域にある青色申告会では、以下のようなサポートを受けられます:
- 記帳指導
- 確定申告の相談
- 税務署への提出代行
- セミナーや勉強会の開催
年会費は数千円程度で、初心者には特におすすめです。
経理ソフトの選び方(クラウドvsローカル)
クラウド型経理ソフト
- freee、マネーフォワード クラウド、やよいの青色申告オンライン
- メリット:自動取込機能、どこからでもアクセス可能
- デメリット:月額料金、インターネット環境が必要
インストール型経理ソフト
- やよいの青色申告、みんなの青色申告
- メリット:買い切りで安い、動作が軽い
- デメリット:バックアップが手動、機能追加が限定的
初心者にはクラウド型がおすすめ。銀行やクレジットカードとの連携により、入力作業を大幅に削減できます。
困った時は税務署で相談
確定申告で分からないことがあれば、税務署に直接相談することができます。特に以下のような場合は積極的に活用しましょう:
税務署での相談がおすすめのケース
- 初回の確定申告で不安がある
- 勘定科目の判断に迷う
- 経費として計上できるか微妙な支出がある
- 控除の適用条件が分からない
確定申告期間中(2月16日~3月15日)は、税務署に申告書作成コーナーが設置され、職員が申告書の作成を手伝ってくれます。必要書類を持参すれば、その場で申告書を完成させることも可能です。
経費が少ない職種の現実的なアドバイス
プログラマー、ライター、デザイナーなど、PC一台で完結する職種の場合、それほど多くの経費が発生しないことも多いです。そのような場合:
- 白色申告でも十分な場合がある
- 無理に経費を探す必要はない
- 基本的な経費(通信費、電気代の按分、書籍代など)を確実に計上する
- 複雑な処理より、確実で分かりやすい申告を心がける
確定申告の提出方法
申告書が完成したら、以下の3つの方法で提出できます。
税務署に直接持参
最も確実で分かりやすい方法です。
メリット
- その場で不備があれば指摘してもらえる
- 控えに受付印をもらえる
- 疑問点をその場で質問できる
デメリット
- 確定申告期間中は非常に混雑する
- 平日の日中しか受付していない
- 交通費や時間がかかる
郵送での提出
忙しい人におすすめの方法です。
郵送時の注意点
- 信書便または郵便で送る(宅配便は不可)
- 提出期限は消印有効
- 返信用封筒を同封すれば控えを返送してもらえる
- 簡易書留など記録が残る方法がおすすめ
e-Taxでの電子申告
自宅からオンラインで申告できる便利な方法です。
e-Taxのメリット
- 24時間いつでも提出可能
- 青色申告特別控除65万円を受けられる
- 還付がある場合、処理が早い(3週間程度)
- 添付書類の提出が一部省略できる
e-Taxに必要な準備
- マイナンバーカード
- ICカードリーダー(スマホ対応機種なら不要)
- 事前にe-Tax利用者識別番号の取得
- 専用ソフトのインストール(WEB版もあり)
マイナンバーカード以外の方法
- ID・パスワード方式:税務署で事前に本人確認を受ける必要がある
- 税理士による代理送信
初回は設定が少し面倒ですが、2年目以降は非常に便利です。特に青色申告で65万円控除を狙う場合はe-Tax申告が必須となります。
知っておきたいその他の制度
インボイス制度について
2023年10月から始まったインボイス制度。適格請求書発行事業者に登録すると、取引先が仕入税額控除を受けられるようになります。
ただし、消費税の課税事業者になるため、消費税の申告・納付義務が発生します。取引先との関係や売上規模を考慮して判断しましょう。
消費税申告が必要になるタイミング
- 前々年の課税売上高が1000万円を超えた場合
- インボイス制度に登録した場合
消費税の申告は確定申告とは別に、3月31日までに行う必要があります。
筆者の実際のやり方【体験談】
ここでは筆者の確定申告の体験談をご紹介します。
事業用口座を作ったけどやめた話
フリーランス開始時に「事業用口座は必須だ」という情報を見て、わざわざ新しい銀行口座を開設しました。しかし、実際に使ってみると、そもそもエンジニアという職種ではそれほど多くの経費が発生しないことに気づきました。
プライベートの支出は基本的にプライベート用のクレジットカードで支払うため、口座からの出金は月1回のクレカ引き落としがほとんど。事業用の支出も事業用クレジットカードを作ってそちらで支払うようにすれば、クラウド経理ソフトと連携して自動で経費管理ができます。
つまり、プライベートの現金支出とプライベートクレカの引き落としさえ区別できれば、口座を分ける必要性をあまり感じなくなりました。現在は個人口座で一元管理していますが、プライベートの出金が限定的なので整理がそれほど大変ではありません。
レシート管理の失敗談と現在の方法
失敗談:レシートを大量に紛失
開始当初は「とりあえずレシートを貯めておけばいいや」と思い、財布の中やカバンのポケットに無造作に突っ込んでいました。結果、確定申告の時期になって整理しようとしたら:
- レシートがヨレヨレで文字が読めない
- どこに何のレシートがあるか分からない
- そもそもレシート自体を紛失
数万円分の経費を証明できずに泣く泣く諦めた経験があります。
現在の管理方法
今は以下のような方法で管理しています:
- クラウド経理ソフトのスマホアプリで撮影(Freeeを使用)
- 月1回まとめて経理ソフトに入力
- 紙のレシートは月ごとに封筒に入れて保管
完璧ではありませんが、紛失のリスクは大幅に減りました。
経理作業のリアルな感想
正直に言うと、ズボラな性格の私にとって経理作業は全く面白くない作業で、やる気が出ません。気がついたら確定申告の時期に入っていて、慌てて休みを取って一気に片付けるということがよくあります。
ただし、クラウド連携技術のおかげで作業は大分楽になりました。銀行口座とクレジットカードを連携させておけば、ほとんどの取引が自動で取り込まれるため、確認作業がメインになります。さらにe-taxを使えばオンラインで申告書を作成・提出まで完結できるので、調子が良い時は作業から提出まで2〜3時間で確定申告を完了したこともあります。
それでも面倒くさくて結局ギリギリになってしまうのが現実です。一気にやるとレシートを見ても「これ何に使ったっけ?」と思い出すのが大変だったりします。皆さんは月1回きちんとやることをおすすめします。私はできていませんが…。
まとめ
フリーランスの確定申告は複雑に見えますが、基本的な流れを理解すれば決して難しくありません。重要なポイントを整理すると:
- 青色申告か白色申告かを早めに決める(青色申告は事前申請が必要)
- 日頃からレシート・領収書をしっかり管理する
- 経理ソフトを活用して効率化を図る
- 売上規模に応じて税理士への委託も検討する
最初は分からないことばかりですが、青色申告会や経理ソフトのサポートを活用しながら、少しずつ慣れていけば大丈夫です。確定申告を通じて税務の知識も身につき、より戦略的な事業運営ができるようになるでしょう。
不安な方は、まずは白色申告から始めて、慣れてから青色申告に移行するという段階的なアプローチもおすすめです。自分のペースで確実に進めていきましょう。
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